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“手作業による仕上げ”の特徴とは?

例として、面取り(アングラージュ)を見てみよう。これはロジウムメッキされた真鍮製ムーブメントのブリッジや、一部のスティール製部品に施される装飾技法を指す。アングラージュとはフランス語で面取りを指し、上面と側面の間に角度をつけることを意味する。通常は45°の角度をつけるが、より高級な面取りにおいては丸みを帯びた面取りも見られる(デュフォーのシンプリシティのように)。ベベリングと面取りの違いを調べてみると、微妙に意味が違うことがわかるが、実際にはこのふたつは同じように使われている。

 さて、先に進む前に最初の重要なポイントを説明しよう:ムーブメントの仕上げには工業的、準工業的、あるいは手作業に分類される。

 手作業による仕上げ技術は最上位に位置し、その有無によってその時計がオートオルロジュリーウォッチであるかどうかが決まる。

 ふたつめのポイントは、この3つの技術がさまざまな時計、あるいは同じ時計のなかに程度の差こそあれ、混在しているということである。

 同じメーカーの時計でも工業的な仕上げ(自動化)と準工業的な仕上げ(手作業と自動化の併用)が混在していることが多く、さらにその両方に最終的な手仕上げが加わっていることもある。伝統的な手法による全体的な手仕上げは通常、最上位モデルに限られる。

面取りにおけるの最もシンプルな形は、まったく面取りをしないことである。例えばグランドセイコーのハイビート Cal.9S86はムーブメントのどこにも面取りが施されておらず、ローターの平らな上面、上面のブリッジとテンプ受けが90°の鋭い角度を成している。しかし、このムーブメントは非常にクリーンで実直な外観をもち、信頼性、耐久性、精度を第一に考えて設計されていることが一目瞭然だ。上の未完成のバルジュー/ETA 7750ムーブメントと比べてみると比較にならないことがわかる。

これは多少の違いはあるものの、ロレックス、オメガ、オリスなど量産ムーブメント製造を行っているほかのブランドと同じアプローチだ。ちなみに機械式仕上げは単一のスタイルではなく、各社が独自の成型加工をムーブメントに入れていることに気づくだろう。

次のステップは、成型加工またはコンピュータ制御のミリングツールを使用して面取りを行うことである。これらの方法は視覚的に満足のいく結果を得ることができ、大量生産の場合には生産時間と複雑さの増加がわずかな代わりに、生産工程全体で一貫性を保つことができる。しかしこれは相対的なもので、装飾的な仕上げを追加するたびに追加のステップが必要となり、施工される仕上げの程度によっては生産時間がかなり長期化する可能性がある。

オートオルロジュリーのアプローチはまた別の話だ。本当に伝統的な手法では、例えばブリッジは側面(部品の垂直な面)を仕上げてからヤスリで面取りを施す。その後、ヤスリで削った跡を石の研磨材で磨いていく。最後の磨きは徐々に研磨材を細かくしていき、ダイヤモンド研磨剤を塗ったペグウッド(掃除木)で仕上げる。使用する木材は、スイスに自生するリンドウという植物の茎である(スイス人は‘59年式キャデラックのバンパーのクロムメッキを腐食させるシュナップスの原料に使用する。もしスイスでフォンデュを食べ、ファンダント‐白ワイン‐をたくさん飲んだあと、そろそろリンドウのシュナップスを2〜3杯飲みたいと思ったらやめておいた方がいい。理由は知っている人に聞いてほしい)。


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